災害廃棄物処理の内容
マスタープランによる基本的な考え方
環境省では、発災約2ヶ月後の平成23年5月16日に処理指針(マスタープラン)を示した。その基本的な考え方は次のとおりである。
(1)処理の考え方
- 発生現場で可能な限り粗分別をした上で仮置場に搬入し、混合状態の廃棄物量を低減。仮置場で可燃物、不燃物、資源物等に分別し、特性に応じた適切な処理によるコストの低減、最終処分量の削減。
- 種類別の処理フローを示し、これを基本としつつ、再生利用可能なものは極力再生利用。
(2)広域処理の必要性
- 被災地では処理能力が不足しており、被災地以外の施設を活用した広域処理も必要。
- 国は、県外の自治体や民間事業者の処理施設に関する情報提供等を実施。
(3)種類別処理方法
- 可燃物は、仮置場での火災防止や衛生管理を徹底。できるだけセメント焼成や廃棄物発電等の有効利用。
- 木くずは、木質ボードやボイラー燃料、発電等への利用を期待。受入側との条件の事前調整が必要。
- 不燃物は、各種分別技術により可燃物や金属くずを取り除いた上で埋立。
- 金属くずは、再生利用を基本とし、利用用途に応じて区別。
- コンクリートくずは、復興資材等として被災地で活用することが有効。再生利用の用途を考慮して分別。受入側との条件の事前調整が必要。土木部局との連携が必要。
- 自動車、家電等は、可能な限り個別リサイクル法に基づきリサイクル。
- 船舶は、燃料、バッテリー等を取り除いた上で破砕し、金属くずは再生利用、廃プラや木くずは焼却しできるだけ発電等の有効利用。
- 危険物、PCB廃棄物、石綿含有廃棄物等は、他の廃棄物と区別し、危険物又は特別管理廃棄物として処理。
- 津波堆積物は、有害物質や腐敗性のある可燃物、油分を含むもの(セメント原料、焼却、埋立)を除き、異物を除去した後、埋め戻し材としての利用や土木資材化。
- 火災発生場所の廃棄物は、灰や灰と混合したものは、ダイオキシン類の濃度を踏まえ、溶融処理や埋立処分。
(4)スケジュール
- 仮置場への移動について、生活環境に支障が生じうる災害廃棄物は平成23年8月末、その他は平成24年3月末まで、との目標を設定。
- 中間処理・最終処分については、全体として約3年後の平成26年3月末までの目標を設定。
県の処理計画
被災3県では、平成23年3月末から4月にかけて、前述の災害廃棄物処理対策協議会が立ち上がり、災害廃棄物処理に係る状況、課題を共有しつつ、必要な対策について協議した。
これらの取組を通じて、岩手県では平成23年6月、宮城県では平成23年8月に、それぞれ災害廃棄物処理実行計画を策定した。福島県については、放射性物質による環境汚染の影響を踏まえて、別途これに対処するための特別措置法が整備され(平成23年8月)、避難地域の災害廃棄物は国による処理が行われることとなり、県としての実行計画は策定されなかった。
岩手県、宮城県の処理計画の概要は次のとおりである。
(1)岩手県
- 倒壊家屋数等に基づく計画当初の推計により、災害廃棄物398万トン、津波堆積物185万トン、合計583万トンの発生量。
- 県は、被害の甚大な沿岸12市町村から包括的な事務委託を受け、市町村の独自処理と連携して処理を実施。
- 県内のセメント工場を中核的な処理施設と位置づけ、民間を含めた既存の廃棄物処理施設を最大限活用。
- 仮設焼却炉2基(195トン/日)、地域毎の2次仮置場(9カ所)に破砕・選別施設を整備し、県内処理を最大限進めた上で、間に合わない分に広域処理を活用。
(2)宮城県
- 倒壊家屋数等に基づく計画当初の推計では、津波に伴う土砂分を除き約1,550万トン~1,820万トン(県内の一般廃棄物の年間発生量の約23年分)の発生量。
- 独自処理を行う仙台市と利府町を除き、県は、沿岸13市町の事務委託を受け、県内を4つのブロック(気仙沼、石巻、宮城東部、亘理名取)に分けて処理を実施。
- 4つのブロックと仙台市に、合計29基の仮設焼却炉(計約4,600トン/日)、9カ所の2次仮置場(県)、3カ所の搬入場(仙台市)を整備し、12カ所の破砕・選別施設を設置。
- 埋立処分量削減のため、焼却灰の造粒固化による資材化を実施するなど、県内処理を最大限進めた上で、間に合わない分に広域処理を活用。
市町村と県の役割分担
岩手県・宮城県の沿岸市町村の多くは、地方自治法に基づく事務委託により、県に処理を委託した。
委託の範囲は、市町村によって異なり、岩手県の場合、市町村の要請に応じて、県の処理が中心となる市町村(野田村、田野畑村、岩泉町、宮古市、山田町、大槌町)と独自処理が中心になる市町村(洋野町、久慈市、普代村、釜石市、大船渡市、陸前高田市)とに分かれた。
宮城県では、仙台市と利府町以外の沿岸市町が、主に1次仮置場への搬入までを市町で、それ以降の処理を県に委託した。
仮置場の確保
津波によって一面に散乱した災害がれきを撤去するため、これを集積する仮置場(1次仮置場)の確保が、市町村における発災後の緊急の課題となった。学校のグランドや公園などの適地は、仮設住宅などの他の用途と競合することとなり、事前の候補地を想定していた自治体にあっても確保が難航した。
仮置場の確保は、当面の災害廃棄物の撤去・搬入目標であった平成23年8月頃にピークを迎え、被災3県の沿岸市町村には300を超える仮置場が設置された。
これと並行して、県を中心とする破砕・選別、焼却等の中間処理の計画が具体化し、これらの仮設処理施設の立地とそこへの災害廃棄物の集積場所である仮置場(2次仮置場)の確保が進められた。
仮置場の確保は、沿岸に広い平野部を有する地域においては、比較的広い用地が確保できた場合が多かったが、リアス式海岸の平野部の少ない地域などでは、適地が少なく用地の確保が難航した。その結果、狭い用地に災害廃棄物を高く積み上げざるを得ず、火災を招いた事例や、用地確保に長期間を要して、仮設施設の立地が遅れた事例などが見受けられた。
既存処理施設の活用と仮設処理施設の立地
仮設処理施設の立地には、用地の確保に加えて、施設設置のための法令上の手続や、事業発注手続、受注者における資機材・要員の確保などが必要となるため、その稼働までには相当の期間を要した。
仮設焼却炉を例にとると、最短で稼働させた仙台市の場合でも、運転を開始したのは、平成23年の10月~12月であり、宮城県の場合、発災1年後にはまだ施設は稼働しておらず、平成24年4月から順次稼働し、平成25年2月にようやく全施設が稼働に至った。
したがって、発災後当面の処理は、既存処理施設に頼らざるを得ず、特に被災県内の既存の廃棄物処理施設やセメント工場、リサイクル施設などを最大限活用する方針がとられた。
また、被災県内で十分な埋立処分先を確保することは、極めて困難であったため、極力減量化と再生利用を図るとともに、隣県を含めた広域処理も検討されることとなった。
被災地における処理と広域処理等による支援
当初から、県内処理を最大限進めた上で、間に合わない分については広域処理を活用するとの方針であったが、広域処理に対する放射能汚染の風評が予想を超えて拡がり、受入をお願いする被災地に対して心ないクレームまで寄せられる事態となったため、被災地の側にも広域処理には頼れないとの意識が拡がり、結果として、多少時間は要しても、さらなる県内処理の深掘りを指向することとなった。
国による代行処理
災害廃棄物特措法の制定(平成23年8月)により、国は被災市町村の要請を受けて、代行処理を行う仕組みができた。しかし、この時点で、すでに岩手県、宮城県はそれぞれの実行計画を策定し、市町村と県とが連携して処理に当たる方針が固まっていたため、同法による代行の要請は結果としてなされなかった。
一方、原発事故の影響により取組が遅れていた福島県の沿岸市町村では、同法に基づく代行処理が検討され、2市2町から環境大臣に代行要請がなされるに至った。それらの概要は次のとおりである。
- 相馬市・新地町:平成24年3月に代行要請を受け、選別後の可燃物の焼却処理を実施。相馬市内に3基(570トン/日)の仮設焼却炉を建設し、平成25年2月から焼却処理を開始。新地町分は平成26年3月、相馬市分は同年11月に処理を完了。
- 広野町:平成25年1月に代行要請を受け、仮設処理施設を建設中で、平成27年6月から処理を開始。
- 南相馬市:平成26年3月に代行要請を受け、仮設処理施設を建設中で、平成28年4月から処理を開始。
参考リンク(環境省サイト)